のりの図書館通い

★ 目に入ったら、ぜひよんでみて
★★ 再読したい、もしくは購入したい
★★★ すぐにでも手に入れたい


8月   
・「方舟に積むものは」望月通陽 筑摩書房
なんだか比喩いっぱいの文章でまどろっこしかったです。詩人的素養のせいでしょうか。あの染色での量産的とも言える確立されたスタイルからすると、文章を書くのはすごく時間がかかっているんではないかと思われます。
・「家なんか建てなきゃよかった」見延典子 講談社
やっぱりこのタイトル気になっちゃって。でも中身は期待はずれでした。家を建てることの本質に迫るというよりも、家を建てる行為を取り巻く人間模様、それもステレオタイプなものばかり。がっかり。でも第1話目の建築家と奥さんとのやりとりは、わかるねーっていうとこもありました。
・「象を飼う 中古住宅で暮らす法」村松伸 晶文社
林雅子設計「ギャラリーをもつ家」に、建築史家の村松伸家族が住むすったもんだがレポートされています。有名建築家の普通ではない中古住宅に、建築史家が住むというのは興味深い設定。本人は使命感をもってこの本を書き記しています。でもこの家に住むことを「象を飼って、象のお腹の中に住んでいるような気分」と形容しているおくさんのがんばりのおかげだと思うな。
・「あんまりな」中野翠 毎日出版社
2002年にサンデー毎日に連載されていたもの。歯切れのいい文章であっという間に読んでしまった。東京的なおねーさん。落語や歌舞伎の話を読むと、どうしても東京の大人の人ってイメージになってしまう。
・「カイナマヒラの家」池澤夏樹 写真・芝田満之
最近「池澤夏樹ってどう?」っていう話になって、うまく答えられなかったことが頭の片隅に残っていてつい手にとる。昔芥川賞を取った「スティル・ライフ」を、父の購読雑誌である文芸春秋の掲載時に読んで、確か筑波が舞台だったと思うのだけど、無機質な筑波の印象とだぶって、こういうのが最近の小説かあと呑気に思った記憶がある。その後も1冊くらいは手に取っていると思うのだけど、最後まで読んでないかも知れない。どう思ってるんだろうか。そんなこと言われても困るなあって感じなんだろうね。やっぱり答えられないわけだ。この話は、最初読み始めたとき、サローヤンの父と子のやつに似てるなって思ったけど。夏の終わりに読む本として手に取ったけど、ハワイ度や夏の終わり度は低かった。
・「雪沼とその周辺」堀江敏幸 新潮社
どうしてこの作家が好きなのかなあ、と問いながら読んだのだけどまだうまく言えないようです。でも↑の作家と違うのは、そのもどかしさにつき合いたいと思うことです。あと読んだ後に、思い出してしまう景色や音や匂いのようなものがあること。


「まど・みちお画集 とおいところ」絵と文 まどみちお 新潮社 ★   
ぞうさんの詩のイメージだけもっていると、ここに出ている絵や詩の世界を意外と思う。でもその世界を知ってからぞうさんに戻ってくると、より深いところでまどみちおの世界に浸れる。「とおいところ」、宇宙だったり、生命だったり、根源はたまた永遠。ずっとずっとそういうものを見つめている人。



7月   
・「塩一トンの読書」須賀敦子 河出書房新社
「ひとりの人を理解するまでには、すくなくとも、一トンの塩をいっしょに舐めなければだめなのよ」と夫ベッピーノの母に言われ、一トンの塩を舐め尽くすには長い長い時間が必要であり、それでもなかなか人間は理解し尽くせないという話を、同じように書物に置きかえて本を読むことの果てしなさとその魅惑的な行為について語っている冒頭の文章に、満足する。満足してちょっとお茶でも入れて、また椅子に座り直してゆっくりとページをめくる。須賀氏の本を読むときの落ち着いた時間。
・「醜い花」絵ー奥山民枝 文ー原田宗典 岩波書店
確か、花のアップだったり、奇妙な生物をモチーフにして、パステル調の色彩と有機的なフォルムが印象に残っていたので覚えていた奥山氏の、最近はこういう絵を描いてるのかなというカット。原研哉氏がアートディレクションしてる瀟洒な感じの本。でもそれだけ。
・「デザインの素」小泉誠 ラトルズ
ふーん、なるほど。と思っても好きだなとは思えないデザインの範疇がある。仕事としては認めるけど。魂は奪われない。まあデザインに魂を奪われる必要はないんだけど。小泉氏のまわりの人々が、彼の人と成りの良さを語っているのがあまりにもいい話ばかりで、それはそうなんだろうけど、本人この本のことどう思っているんだろうか。気恥ずかしさとかないんだろうか。これにサインして配ってたりするんだろうか。
・「たましいの場所」早川義夫 晶文社
歌手から本屋になってまた歌手に戻った人らしい、というのは知っていましたが、どんな歌を歌っているのか聞いたことはありません。女の子が好きでえっちなことを歌って、落ち込んだり舞い上がったり、そういうのはミュージシャンの典型なのだろうけど、この本を読む限りやはりそれがすべて。そうじゃないと人の心に届く声にならんのでしょう。


「ベトナム低空飛行」赤瀬川原平 ビジネス社★   
今回のベトナム旅行の印象にいちばん近いです。ベトナム関係の旅行記や案内文やちらちら見たけど、この写真集がいちばん、そうそうと思います。赤瀬川さんも1週間くらいの旅行なのに、これだけ被写体を捉えられるのはやっぱりそういう目の人。わたしなんかきょろきょろ視線が定まらず、シャッターを切る余裕もほとんどなく、目に入ってくるものとの関係が全然結べなかったもの。そのぐらいなんか過剰な印象の街だった。この写真の頃より、バイクの数や人の数も絶対増えてると思うな。



「おもちゃのいいわけ」舟越桂 すえもりブックス★   
広島現代美術館の舟越氏の展覧会に行きました。物質自体、ミニマルな表現から遠い彫刻家としてその存在位置を確立した作家であるし、今までの仕事が一覧でき、近作がどうなってきているのか確認することが出来て、有意義な時間でした。製作の模様を写したビデオを見て、あーやっぱり天才的な技術なんだなとわかりました。もっと繊細な作業を想像していたのに、ダイナミックな動きと余計な逡巡のなさがそれを物語っていた。大工さんのような風貌だったし。もっと若い頃は、ちょっと影のある青年ってかんじだったんだけどなあ、たしか。それでこの本。これは舟越氏のお姉さんがやっているすえもりブックスという出版社からでている本。一度読んでみたいと思っていたのでタイミングとしてはよかったです。確かな存在感あるものを作りだしてしまう手と、ものごとをじっと見つめてひとつの世界を作り上げる眼差し、が感じられる。ここにあるおもちゃと、肩がぐぐっと盛り上がってそこに小さな家の姿が乗る、誰かのようでもあり誰でもないその半身像とは、同じ作家の仕事だと納得できる。



6月   
・「収納計画は人生計画」加藤ゑみ子 ディスカヴァー21
こういう本にありがちな中身のなさと退屈さ。でも、収納ひいては生活空間とはその人そのものを現すというのは正論。ものとの関わり方は、生きていく方法と一緒。そして単に合理的な収納方法や収納グッズを取り揃えればいいという話ではない。なんで借りちゃったかと言うと、表紙絵やカットがなんだか惹かれるものがあって、よく見たらいっとき暮らしの手帖の表紙絵を描いていた牧野伊三夫氏だった。
・「ほんとうらしく うそらしく」ささめやゆき 筑摩書房
そんなこと言いながら、素直な人だなあと思う。抜ける感じの絵ですが、文章もなかなか抜けてます。版画とか油も見てみたいです。
・「マジョモリ」「ペンキや」梨木香歩 理論社
絵も美しいしていねいな本だけど、なんとなく話だけがすすんで細部が感じられないのがちょっと残念。細部描写がないわけではないんだけど、それによって話がふくらんでいく感じがしない。
・「なぜ日本人は成熟できないのか」曽野綾子・クライン孝子 海竜社
行動的ですごく頭のいいおばさんに怒られているようで気持ちいい。曽野綾子女史の言ってることは、いつもKがぶつぶつ言ってることに重なるので読ませてみると、30分ぐらいで読み終わって、自分の考えとほとんどぶれがない、ということ。ということは私は頭のよいおばさんと暮らしているようなものか。複雑で豊かなきっぷのいいおばさんに、私もなりたいと思う。
・「らくだこぶ書房・21世紀古書目録」クラフト・エヴィング商會 筑摩書房
この人たちの本は、いつもいいんだけどなんだかという場所にある。なんだかというのがなぜかよくわからないのだけど、微妙になんだかがいつもつきまとうのだ。ちょっとやりすぎなのか、鼻につくというか、頃合いがちがうというか。これはでも「よくがんばりました」ってかんじで、最後のページをめくり終わって、おもわず小さく拍手をしました。
・「郵便配達マルコの長い旅」文・天沼春樹 絵・出久根育 毎日新聞社
うーん。この手の子供向けでも若い女性向けでもある可愛らしい本は、今ひとつくいたらないことが多いね。なんかすかすかしてるんだよね。絵に頼っちゃうのかなあ。
今月は、なんか不満が多かったですねえ。そういう季節かしら。いいえ、簡単に読めそうなものしか借りられない精神状態の私自身に、問題があるわけです。


5月   
・「小さな国のつづきの話」「小さな人のむかしの話」 佐藤さとる 講談社 ★★
結局シリーズ全部読み通してしまった。第5話には、お話しの中にこのコロボックルの本自体が登場し、作者も手紙を通して出てきたりする。そういう話の構成、物語の背景の作り込み方、電気やら編集やら国づくりについての進め方、少々くどい前書きやあとがき。それらのこの話の特徴が、建築科卒という作者のプロフィールが分かって妙に納得。科学、社会、自然、文化、そういうものがバランス良くお話しの中に収まっている。そして大事なこと、信頼される人間とはどういうものなのか、気付かされる。村上勉の絵も一生忘れられない絵だ。
・「絵描きの植田さん」いしいしんじ 絵ー植田真 ポプラ社
本屋でぱらぱら中身を見ないで、ちゃんと最初から順番に読み進めてください。と作者が言っていたので、本屋でぱらぱらしないで買おうかどうしようか随分悩み、結局そのままになっていたので、図書館で見つけて嬉しかった。でも期待はずれ。最後の方に出てくる絵も、もうちょっと枯れた情緒的なものを期待していたのに、イラスト的で残念。絵描きという存在が持つ切実さも足らんな。
・「食を追ってベトナムへ」構成・文ー植月緑 撮影ー渡邉文彦
GWにベトナムへ行って来たので、なんだかもはや懐かしいベトナムを再び味わいたくて借りてしまう。他国料理ってただ本で眺めてもぴんとこないけど、1回でもその国でご飯食べると、その存在がすぐにすごく身近なものになる。味覚と郷愁は近しいもの。
・「くるーりくるくる」松山巌 幻戯書房
この著者も建築学科卒だった。それも東京芸大の。文学部卒ってかんじとは違うスタンスで書いてるなあとは思っていたけど。言葉遣いを変化させて書くようなところ、どうかなと思うけど、どうかなと思わせているのだから効果はあるのだろう。好みではないけど気にはかかる。文学部卒(それも美学美術史学科)で建築へのアプローチをしている身としては。
・「バスにのって」田中小実昌 青土社
なんか同じことがリピートされてて、そういう日常。この人の存在感そのもの。バスに乗って窓の外を見つめ、映画の試写会に行き、酒を飲み、文章を書き。よけいなものがない。それしかない。直結してるかんじ。なにに?


「だれも知らない小さな国」〜佐藤さとる 講談社 ★★   
「だれも知らない小さな国」「豆つぶほどの小さな犬」「星からおちた小さな人」「ふしぎな目をした男の子」
小学3.4年生ぐらいの頃に一度読んでます。読みすすみたい気持ちと、読み進むのがもったいないような気持ちとが絡まり合うような本に出会うときがあるが、この4冊、そう思いながらあっという間に読んでしまった。かつて図書委員が嬉しかった本読み少女も同じくらいの速さで読んだのだろうか。いつ読んでも、おはなしが活き活きしているというありがたい本は大切にするべきだ。でてくる子どもも大人もコロボックルたちも、みんな賢くて機敏で勇気があって正しくて、いいおはなしを聞いていいひとになれそうな気がしてくる。



4月   
・「いまを生きる言葉『森のイスキア』より」佐藤初女 講談社
高山なおみさんが心酔していたので興味を持ちましたが、こういう本だけだとよくわからないですね。宗教が出てくるとひいてしまうところがあるし。出会いとか気づきとか、そういう言葉にすると色褪せるような気がする。やっぱりそこでご飯を食べないと、わからないんじゃないだろうか。
・「写真生活」坂川栄治 晶文社 ★
ひろいものってかんじでした。後半の「写真を持つ」はいただけないけど、写真集を紹介していく前半部分は、写真家のセレクトもなんかいいかんじだし、(いえ、そのうち知っている写真家はわずかです。でも見てみたいなと思わせる。)著者がそれをどんなふうにいいとおもっているのかを、きちんと伝えようとする姿勢がいいかんじだ。


3月   
・「はりえ日記1」宮脇綾子 東方出版★
デッサンする力があるのと、やっぱりセンスがいいってことでしょう。きっと実物はもっと活き活きしてるんじゃないかな。
・「香月泰男の絵手紙」小池邦夫編 二玄社
最近流行とされている絵手紙という分野で香月泰男が語られるのはなんだか不満だ。だれ?この編者は。大づかみにえいと腹を決めて勢いが大切なんて結んであるけど、絵手紙ってそういう安易さが嫌なのだ。
・「「お買いもの」のいいわけ」堀井和子 幻冬舎
いいんじゃないですか。料理&雑貨教祖の第一人者として貫いていらっしゃる。むかしの文章より人間味みたいなものがでてきてて親近感持てます。
・「本業失格」松浦弥太郎 ブルース・インターアクションズ
エッセイを買う程じゃないけど読んでみようかと思ってた人。思ってたとおり書き手としての魅力はなかったですが、生き方としては興味はあります。あとがきにかえて沼田元気が書いてる文章が面白い。アメリカーンなやつは私もやっぱり同意できないのだ。でもそういう歴史もあって今があることがなんというか時間をかみしめることができて人生の深さとかに通じていくのだろし、やっぱりやたろうくんの本屋はぜひ行ってみたいです。
・「センセイの鞄」川上弘美 平凡社
小泉今日子が演じたらしいので(みてないけど)どうも彼女がちらつくのでしたが、キャスティングとしてはどうかなあ。途中までは許せるとして、なんというか「センセイ、好き」「ツキコさんは、本当にいい子ですね」な展開になってからはつまらん。ただの甘ちゃんだったのかってかんじ。よほど小島孝の方が恋愛対決(なんじゃそりゃ)できる相手だと思うのに、そういうものからは逃げるわけやね。
・「猛スピードで母は」長嶋 有 文芸春秋
佐野洋子の「神も仏もありませぬ」を読んで、この本のことが出ていたので借りました。芥川賞取ったときは手に取ろうと思わなかったですけど。ここに出てくる洋子さんやら猛スピードの母がやっぱり佐野洋子と重なって、なんかそういうことに左右されちゃうのよねー。佐野洋子の息子じゃないんだけど印象としてはそこのポジション。大人未満というか、中途半端な子どもでもない大人でもないような人たちの話が多いねどうも。
・「今日のわたし」大橋歩 PHP研究所
もう大橋歩も60才なんですね。とっても真面目で素直な人なので、仕事が減ったとか(こういう人でも?!)老いていく実感なんかが語られていると、きっとそれは本当のことで、何ともいいようのない気持ちになる。でもこの絵があるから救われる?
・「母の贈りもの」リーヴ・リンドバーグ 青土社
この母というのはあの「海からの贈りもの」のアン・モロー・リンドバーグ。著者はその娘。母親との最後の1年8ヶ月を書き記したもの。読み出しは、この書き手の娘と同様に、年老いて体が弱り精神も彷徨い、何より言葉を発することなく沈黙の中に佇む姿に、失望すら感じる。これは読むべきものではなかったのではないだろうか。あの気高き精神を持つ作家としての彼女だけを、読者としては知っておくべきではないだろうか。ここに記されているのは、別の一人の人生を閉じようとしている女性なのではないだろうか。一人の人間の存在。作家という魂の存在。そしてただ死のみがあるということ。つまり生のみがあったということ。それでも最後の詩「遺言」は、そういう気持ちを涙とともに流してくれる。
・「きものが欲しい!」群ようこ 世界文化社
雅な着物ではなくて、こういう紬みたいな着物が好きという人々の存在が認められつつある。喜ばしいこと。でもいきなりじゃんじゃか手に入れられないから(この作者のように)読んでも、もどかしさばかりがつのるのである。
・「北欧デザイン2 プロダクト」渡部千春 プチグラパブリッシング
北欧は流行っている。流行りすぎの感もある。あー行きたいフィンランド。
・「建築の向こう側」TOTO出版
カーサブルータスの編集長と副編集長の話をとりあえず読んでみようと。この建築ばやりのご時世の最大の功労者であり、罪作りの源、カーサブルータス。彼女(編集長)は、ワインブームの仕掛け人だったのであり、同じようなのりでこの建築ブームを作り上げたらしい。てことは、やっぱりブームは去っていくのよねえ。まあそれはそれとして、いわゆる建築雑誌とは違う労力を随分かけていることは確かみたいだし、切り口もお見事だとも思う。でも「建築っていう字はいい字だよね。この字が好きなの」というのりで、ヨーロッパの建築をだだだーと見尽くしていくような、そういうのにはやっぱりついていかない、私は。のり、の違いの問題だねこれは。
・「光ってみえるもの、あれは」川上弘美 中央公論新社
息子と母と、それを取り巻く者たちの話が、ここのところ重なったので(偶然にです)ちょっと混乱する。母的であることないこと、父的であることないこと、若者的であることないこと。普通的であることないこと。そういうところで揺らいでいる話が多いのはなぜだ。何かを演じること、演じないことさえ不可能になってしまった不器用な現代の人々。
・「日本口福紀行 がんこの卓上」佐藤隆介 NHK出版
おいしいものを教えてくれたのは、大人たちだったと思う。おいしいものを舌が覚えるには、おいしいものと誰かが引き合わせてくれねばなかなか出会えない。かつて私を導いてくれた大人のひとりだった人は、池波正太郎の信者であった。この著者は池波正太郎の書生だった人。池波正太郎読んだことないけど、同じテイストだろう。あーまだまだ舌が未熟者な子どもは、どんどん修行せねば。

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