NORI CHOI

「アレクサンダー・カルダー展」   
広島県立美術館 
9/2〜10/14

ちょっと意外だったカルダーおじさん。会場入ってすぐのビデオを観て、いきなり納得させられてしまうなんて。それはちっちゃくて薄汚れたようなカルダー作の人形が、彼の太い指で動かされてサーカスの舞台を演じるビデオ。雑だけどサーカスの人間や動物の動きそのものがかたちづくられていて、こんなふうに動きが表現できるなんてすごいことだと思ったのだ。針金細工のような簡単な物なのに、それは動くとまったく馬になるのだ。奥さんと二人でちまちまとちっちゃな舞台でサーカスを演じ、観客は楽しそうに笑っている。アートとは、なーんてお題目はここには存在しない。そうちまちまとほんとに日常的にエンドレスにカルダーおじさんは物を作っていたのだ。持っている服は赤いネルのシャツを二枚。家にある物という物はほとんどカルダーの手作り。(フライ返しなんかほしい。)アトリエも、作品や作品以前の物でぐしゃぐしゃ。もうどうしようもなく芸術の中にいる人なのだ。そんなカルダーおじさんを知ってからあの優雅に空間を浮遊する作品群を観ると、親近感がぐっと増す。ちょっと粗い仕上げも、らしくていいなんて思う。でもここにあるのはやっぱり抜群のバランス感覚で、たぶん小学校の図工の時間でモビールを作ろうなんていう課題を経験しているし、お家にかえって作ってみようかと思うのだが、きっとこんなふうにはできないのだ。それにしてもあの軽やかな作品から、華奢な繊細な作家のイメージがあったのだが、思いっきり気持ちよくひっくり返されたな。満足。



ウクレレショップ・ココナッツカフェ   
西区己斐上 082-507-1052

ここ何年かずっと弦楽器がやりたいなーと思っている。リュートみたいな古楽器もいいし、ビオラってのも渋いなあ、シュタイナーのライヤーもいいし、でもまずは気軽にウクレレさって、何年か前にとっても安いのを買った。(身に覚えのある人、いるでしょ)教則本に載っている曲はハワイアンで、知らないけどハワイアン風な曲を歌いながら、 スッチャカしていた。でもハワイ行ったことないし、ハワイアン遠くて遠くて2曲目で挫折。は〜やんなっちゃった、は〜おどろいた、なんていうコードはできるようになったけど。それで未だにうちのウクレレはほこりをかぶっているのだけど、ある日新聞で見つけたこの店名。それも己斐上だって。ハワイから一番遠いところだ。何かのおりに行ってみようと思いながら数ヶ月。そしてついに呼ばれていって来ました。詳しい住所知らなかったのにわかっちゃうんですねえそういう時って。すごく感じました、ウクレレの気ってやつを。それでも一応電話で場所を確認していってみると、そのガレージを改装したという6畳くらいの店内、確かにウクレレがずらーっと並んでいました。そしてハワイアングッズ。アロハシャツや小物やCDや。この季節はずれの、いやいつでも常夏のこの感じ。何かを思い起こす。そう昔トロピカルってのりがあったじゃないですか。店内には観葉植物が茂り、ネオン管で意味のない英語の単語が浮かび、カルーアミルクとか飲んじゃった、あー遠い昔。店主はそういう過去があるのかないのか、3年前からウクレレにはまって、店まで作っちゃった男性(推定43歳)。ヤマハでウクレレ習ってるんですって、なんだかとってもほのぼの。それで妙にそこの空気に和んでしまって、ウクレレ談義をしてきました。そして前から気になっていた ハーブオオタさんの最近のおすすめCDを買って帰りました。Herb Ohta&Lyle Ritz/UKULELE DUO(VICG-60452)いいです。抜ける感じがとってもいい。ついでにRolling Coconutsっていうフリーペーパーをもらってきましたが、そこにはウクレレな人々が幸せそうに生息していて、世の中には未知な世界がまだまだあるんだと思い知らされるのでした。



広島県立美術館 1F 図書室   
インターネットで情報チェックするのもいいけど、展覧会やイベントのチラシを手にすることって、そこにまた違った情報が感じられるからやっぱり好きだ。仕事がらみの情報集めで通うのがここ。まず並んでいるチラシを集める。えっこれやるのーとか、うそーいきたーいとか、ついつい声に出る。かなりはいり込んでいる。そして次に図書室で雑誌をチェック。ART、デザイン、工芸、建築等結構雑誌がそろっているのでとっても助かる。何冊かずつ机に持っていきひたすらページをめくる。刺激を受けて、結構気分がハイになる。
いつもお客(?)は全然居ないので、とても静か。でも頭の中はぐるぐるしているから、喧噪の中にいたみたいな気分で扉を開けて帰ることになる。
月に一回、こうして私のアンテナは活を入れられる。


「海からの贈物」リンドバーグ夫人   
吉田健一訳
新潮文庫

自分を立て直すときに読む一冊。今回もタイミング的にヒット。
落合恵子訳のものも依然ちらっと見かけたけど、やっぱり吉田のおじさまでなきゃ。
これを月の美しい夜に手渡してくれた彼は、今頃どうしているだろう。
これを読むときには三善晃の「海の日記帳」をBGMにと教えてくれた彼は、元気にしているだろうか。
ときどきひとりで「わたしの海」に帰る。そしていつもその海を感じていられるように、私自身を波間に浸してくるのだ。海辺は人間の遙かなる故郷だ。大事なものが、懐かしいものがそこにはある。



「彼女を見ればわかること」   
監督・脚本 ロドリゴ・ガルシア

タイトルがいいじゃないですか。
THINGS YOU CAN TELL JUST BY LOOKING AT HER
彼女を見ればわかること、そういうこと。孤独ってそういうことだ。
誰もお互いにその孤独に触れられないけど、誰かと生きている。
もしくは誰かと生きていたい。
じょうずだったなあ。さりげないけどすごく気を使ってシーンを作ってあって。大きなコップでのみものをごくごく飲むところとか、ベッドのシーツの肌触りとかとても近しく感じられたし。5話でできてるんだけど、絡ませかたも嫌みがなかったし。彼女たちの生活や人生が、服装や小物、インテリアなんかに現れていて、アメリカのある層の人たちのことがわかったし。ベッドに横たわる男性とはっと目の合う瞬間、これは監督が影響を受けたっていうビクトル・エリセの「ミツバチのささやき」のフランケンシュタインを見た アナのシーンだ。そういう映画的なおもしろさや、占い師や小さな男や盲人、路上生活者が話の鍵になったり、ピアスや指輪や花が意味深く使われたり、そして洗練された脚本、それぞれに魅力的な女優陣。いいです。
ね、いい作品を見るとなんだか宇宙が深く広くなったみたいな気分になる。見終わったあとの帰り道、世界が違う顔をしているし。私の視線がいつもと違うまなざしで世界を触っているなと思う。
ロドリゴ・ガルシアっていう監督。
ガルシア・マルケスの息子なんだって。百年の孤独、読んでないからな、今度読んでみよう。

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