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林家雑記 その4 

耳 2


窓から見えるあの壁から、毎日夕暮れ時に聞こえてくる声がある。男の人の声だ。誰かを相手に話しているのかもしれないが、聞こえてくるのは彼の声だけ。大きな声で、乱暴な喋り方。遠くにいる人に声をかけたり、人を脅かすために出す大声のようなトーンでずっと喋り続ける。一言二言何か言っては必ず「ばかやろう」が挟まれる。スポーツや競馬のテレビ中継を見ているような、今日あった出来事を話しているようなそんな雰囲気なのだが、耳をそばだてて聴こうとしても「ばかやろう」の連発に邪魔されて、何の話か聞き取れない。以外と楽しそうだったり、本気で怒ってそうだったりするのだが、喋り方は全然変わらない。ずっと同じトーンで喋っている。大した集中力だ。こちらまでなんだか緊張してくる。途中で笑ったりすると、楽しい話だとわかってほっとしたりする。

それで突然、それはぷっつり終わってしまう。満足して彼の一日は終了したのだろうか。こちらも安心して、仕舞っておいた通常の耳を取り出す。


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