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林家雑記 その2 


朝の光が部屋に差し込み、Kは眩しくて目が覚めてしまうという。この部屋の窓にはカーテンがない。布が垂れている様子が嫌いなのだというKの選択である。ひらひらしたものが嫌いなのか、閉所恐怖症なのか、ただのめんどくさがりか。網戸も雨戸もブラインドもない、古くなってがたついているサッシの窓は、朝の光だけでなく、夜になれば小さな虫もたくさん招き入れる。朝も昼も夜も、無防備なその窓が気になって仕方ない。通りに面しているのでもなく、雄大な景色が広がるのでもない、ただとなりの家の壁が見えているだけだ。唯そこが外に開かれているせいで、気になってついつい目がいくのだろう。何がそこに映っているのか気になるし、こちら側が映し出されているとも限らない。それとも、何かと、誰かと、目の合う瞬間を先送りにしながら、窓の向こうの何かを待ち続けているのかもしれない。

昔、六人の大部屋で入院生活を送った時、食事を終えテレビも消え見舞客もない、時間が止まったような午後、六人がそろって窓を見つめていた。六人の寝着を身につけた病人達が、首を向けるだけだったり、ベッドに座り込んだりして、空が映っているだけの窓を見ている。外へ気持ちを向けている。雲が横切れば、ああ雲が、と思い、鳥の姿を、ああ鳥がと目で追い、雨が降れば、ああ雨が、と時間を送る。
ふと気が付けば、いつだって窓を見ている。

ところで並んで眠っているわたしは、つまり窓際側で朝の光に背を向けている。眩しくて目が覚めてしまうことなく、後光を背に眠りをむさぼっている。Kは、眠るわたしの顔と向き合っているために、さんさんと光を受けてしまう訳だ。寝返って反対を向けばいいことなのだが、相手に背を向けられることはなんだか寂しいような気がするもので、自らも背を向けられずにいる。この場合、眩しくても仕方ない。そこに光の恩恵、愛の恩恵と向き合っているのだから。


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